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海底調査法1. 測深海の深さ、すなわち水深を測定することを水深測量あるいは測深といいます。 測深の方法には使用する機器の種類によって錘測、音響測深、レーザー測深等があります。 1) 錘測錘測はロープ又はワイヤーの先端に鉛などの測鉛又は投鉛と呼ばれる錘を付けたものを船の上から降ろし、この錘が海底に到着した時のショックを感じてその時までに伸ばしたロープ又はワイヤーの長さから水深を求める方法です。 錘測は、20世紀中頃以降に音響測深に取って代わられるまで水深を測る主流の方式でした。 音響測深を原則とする現在でも、水深10m以浅の係留船舶の多い狭い港内等の測量で例外的に使用されることがあります。
2) 音響測深音響測深は船から発信された音波が海底で反射されて戻ってくるまでの時間を測定することにより水深を測定するシステムです。 例えば、海中の音速度はおよそ1,500m/sであるので、船から海底に向けて発射した音波が2秒後にその船に戻ってきたとすれば、その時に音波が海底に到達するまでの時間は往復時間の半分の1秒ということになり、従ってその地点の水深は1,500mであることが判ります。 音響測深機を使用して水深を正確に測る場合には様々な補正を行う必要があります。 すなわち、音響測深機の送受波器の位置の補正、潮汐の補正、海中の音速度の変化の補正(水温や深度によって海中の音速が仮定音速の1,500m/sからずれている場合の補正)、波浪の影響の補正、斜距離の補正等があり、これらの補正を適切に行うことによって初めて正確な水深値が得られます。 また、音響測深は音波を送受信する方式によってシングルビーム音響測深、多素子音響測深、マルチビーム音響測深に大別されます。 A. シングルビーム音響測深シングルビーム音響測深は、船が航走しながら直下に向けて超音波を送信し、海底からの反射音を連続的に記録紙等に記録する方式です。 これによって海底の地形断面の情報を得ることができます。 シングルビーム音響測深機で得られた記録を基に海底地形の等深線を描画する場合、隣り合う測線と測線の間の地形を想像して行うことになりますが、この際に海底下の断層や褶曲などの地質構造が推定されている場合にはこの地質構造を反映するように等深線を描きます。 後述のマルチビーム音響測深機で測線の間隔を未測区域ができない程度に密に設定すれば、このような推定を入れることなく正確な海底地形図を作製することができます。 B. 多素子音響測深通常のシングルビーム方式の音響測深機では船の直下の水深を連続的に測量していくので、船の直下から左右方向にずれた地点の水深は得られません。 しかし水路測量では海底からの突出物等の航路障害物を効率よく見つける必要があるので、船の直下の水深だけでなく船の左右両側に幅広い区域の水深も欲しいところです。 そこで、港湾等の浅い海域では、少しでも面的な測深をするために、船の両舷に長いブーム(竿)を伸ばし、このブームに音響測深機の送受波器を適当な間隔にセットして一時に多数の水深データを得る方法や、船の両舷に直下と斜め下に向けた送受波器を2個ずつ(左右合計で4個)装着するシステムが考案されてきました。 特に後者の方法は、5型あるいは6型と呼ばれる音響測深機により現在でも実施されています。 C. マルチビーム音響測深1980年代の始め頃から、船の左右方向に指向角が広く前後方向に指向角の狭い音波を発射して、船の真下の水深だけでなく船の左右方向の水深までを一時に測量することのできるマルチビーム音響測深機が開発されてきました。 このマルチビーム音響測深機の原理はクロスファンビーム方式とよばれているものですが、この方式は横一列の多数のビームは船の前進とともにあたかも“芝刈り機で芝を刈ったように”海底地形を明らかにすることからスワス測量と呼ばれることがあります。 日本では、1983年に海上保安庁海洋情報部の測量船「拓洋」に搭載されたシービームが最初のものでしたが、現在では多数の種類のマルチビーム音響測深機が様々な海洋観測船・研究船・測量船に導入され、非常に正確な海底地形の調査・測量が進められています。 従来、マルチビーム音響測深機は送受波器が大掛かりで、通常は船底に装備するようになっていました。 このため小型船による浅海域の水路測量用の機器としては適当なものが少なかったのですが、最近は浅海用のマルチビーム音響測深機は装置もだんだん小型化されてきており、HYDROSWEEP 、 SEABAT などがポータブル式のマルチビーム測深機として製品化されています。海洋情報部では1997年からSEABATを使って海図作製のための水路測量を開始しています。 D. 海底面探査海底面探査は、サイドスキャンソナー又はサイドルッキングソナーと呼ばれる機器を使用して海底表面の状況を調査します。 海底面探査では曳航体またはフィッシュと呼ばれる送受信用のセンサーを船尾から海中に曳航し、センサーから左右方向に広く前後方向に狭い扇状の音波を海底に向けて発信します。 そして海底面で後方散乱されて戻ってきた音波の強弱を記録することにより、海底の障害物や小さな起伏、あるいは底質の違いをあたかも写真で撮ったような画像として得ることができます。 サイドスキャンソナーは1960年頃から開発が進められましたが、 近年では水深も同時に測定できる広域測深型サイドルッキングソナー(Sys 09 , IZANAGI 等)や、合成開口手法を用いてより高分解能の記録を得ることのできるソナー(ACID sonar等)の開発も進められつつあります。 更に最近ではサイドスキャンソナーと表層音波探査装置とを一体化して海底音響画像と表層音波探査による海底下の断面記録を同時に得る方法も使用されることがあります。 1997年度末に就役した海洋情報部の大型測量船「昭洋」には 、高速曳航が可能な最新の広域測深型サイドスキャンソナーである Sys 09(愛称 ANKOU アンコウ)が装備され、1998年度から各種調査を開始しました。 E. レーザー測深航空機からレーザー光を発射して水深を測量する方法をレーザー測深といいます。 レーザー測深では、通常、赤色のレーザー光(主に海面で反射される)と緑色のレーザー光(主に海底で反射される)を併用して両者の反射時間の差から水深を測定します。 航空機は高度500m程度を飛行し、発射されるレーザー光は機体の左右にスキャン(走査)されるため、航空機の直下の水深だけでなく左右に幅を持って多数の水深値が短時間に得られます。 レーザー測深の技術の開発は、米国、カナダ、オーストラリアなどが熱心に取り組んでいますが、現在の技術で測深できる深さは海水のきれいな場所でも水深70m程度までであるとされています。 このような航空機を使用したレーザー測深はオーストラリアのグレート・バリアー・リーフのように広大な浅い海域や長大な海岸線をもつ地域で使用されています。 F. 遠隔操縦方式による測深我が国には火山が多数ありますが、火山は陸上ばかりでなく海中にも存在しています。 例えば、伊豆諸島八丈島の南方約130kmの地点にある明神礁は、明治いらい繰り返し新島を形成しては爆発で島を吹き飛ばしている活発な海底火山です。 1952年には海上保安庁の測量船「第五海洋丸」が新たに形成された新島(明神礁)の調査に急行したが、その調査中に海底噴火に遭遇して遭難しました。 海洋情報部ではこのような危険な海域における水路測量を安全に実施するために、自航式ブイ「マンボウ」を開発しました。 測量海域まで運ばれたマンボウは、測量海域で本船から海上に降ろされ、そのあとは本船からの遠隔操作によって5ノット程度の速力で水路測量を行います。 また、事前に測量予定線の位置をプログラムのデータとして入力しておくことにより、自動的に予定測線上を測量することもできます。 1989年7月には静岡県の伊東沖で起こった手石海丘の海底噴火の直後に水路測量を実施し、同海丘の誕生直後の地形の把握に成功しました。 また、1993年6月、マンボウは明神礁付近の水路測量を実施して最浅水深22.5mの山頂を確認しました。 1998年に就役した新しい昭洋(3,200総トン)には、有人・無人の両方の操船に対応した特殊搭載艇「マンボウ II」が装備されています。 2. 底質採取海底面を構成する岩、砂、泥、貝殻等の物質を底質といい、この底質を採取することを底質採取又は採泥といいます。 海図上に記載されている底質記号(R, S, M, Sh 等)は船舶が錨泊する際の錨の利き具合を判断するための情報となり、特に台風や発達した低気圧が接近しつつある場合、避泊中の船舶には走錨(錨が利かなくなって船が流されてしまうこと。)の危険もありうることから、避泊地における錨かきの判断が重要となります。 採泥は、船の上からワイヤーの先端に採泥器を付けて海底まで降ろし、底質を採ってくる作業です。 近年では、海底面探査や音波探査によって底質を面的にあるていど推定できるようになりましたが、もっとも確実な底質の調査手法は実際の試料を採取するこの採泥であることに変わりありません。 採泥器は大別してドレッジ採泥器,グラブ採泥器、柱状採泥器の3種類に分かれます。 1) ドレッジ採泥器ドレッジ採泥器は先端が開口している金属製の円筒又は箱型の容器(後部にはチェーン・バッグと呼ばれる網状の袋が付いているものもある)を海底面上を引きずって底質を採取します。 通常、ワイヤーは水深の1.5倍から2倍程度くりだして採泥器を海底上にゆっくりと這わせるために、ピンポイント的な底質採取はできず、場所を異にした海底の底質が混在することになります。 このため、泥や砂などの採取には堆積物が乱されてしまうためにあまり適しておらず、礫や岩の採取用として使われることが多くなっています。 ドレッジ採泥器による採泥作業には巻揚機の張力計にかかる力を調節したり、船の向きを適当な方向に変える等の操船や甲板での作業に高度な技術が要求されます。 2) グラブ採泥器グラブ採泥器は先端が回転運動をする開閉式になっており、海底の堆積物の表層を乱さずにつかみとるものです。 着底時の衝撃で先端が閉まるもの(エックマン・バージ型等)や着底後メッセンジャーと呼ばれる錘を採泥器に落としてそのショックで先端を閉めるもの(スミス・マッキンタイヤ型等)などがあり、堆積物のピンポイント的な採取に適しています。 3) 柱状採泥器柱状採泥器はコアラーともいい、円柱状のパイプを海底に突き刺して海底下数メートル以上の堆積物を乱さずに採取するものです。 パイプの先端部には試料をつかみとり、また、中に入った試料がコアラーを揚収中に抜け落ちることを防ぐための装置が取り付けられています。 採取できる堆積物は泥から細砂までの細粒堆積物に限定されます。 コアラーには自由落下させる重力式と内部にピストンを入れたピストン式とがありますが、一般には両方の方式が使えるようになっています。 3. 音波探査音響測深と良く似た方法ですが、音響測深よりも海中に向けて発信する音波のエネルギーを更に強くするとともに減衰の少ない周波数を使用すると、音波は海底表面を突き透過してその下にある音響的な不連続面で反射して船に戻ってきます。 この音波を受信機で受信して記録させると、海底面だけでなく海底下の記録も得られます。 この音波探査記録は海底の地質断面のイメージに近く、堆積物の厚さや基盤の深さ、断層、褶曲構造などが読み取れます。 このようなやり方で海底下の地質構造を調べる方法を音波探査又は地震探査といい、点の調査である採泥では十分に把握できない基盤岩の分布範囲を調べたり、海底地形図の等深線を描画する際に参考となる海底地質構造の調査に活用されます。 さらに最近では、海底の活断層の分布状況の調査にも活用されています。 音波探査は探査方式によって大きく反射法音波探査と屈折法音波探査に分類されます。 反射法音波探査は更に表層音波探査とシングルチャンネル音波探査並びにマルチチャンネル音波探査に分けられます。 表層探査装置は磁歪振動等を使って周波数3.5kHz程度の超音波を発信し、海底下の数十mから100m程度までの音響的地層を高分解能で探査する装置です。 シングルチャンネル音波探査は、海底下から反射して帰ってくる音波を受信するセンサー(ハイドロフォンと呼ばれる一種の水中マイクロフォン)が単一グループのもので、システムがあまり大掛かりでなく手軽に使用できるものですが得られる情報はマルチチャンネル音波探査よりも少なくなります。 シングルチャンネル音波探査に使われるサイズミック・プロファイラーは、圧搾空気を放出するエアガンなどを使って表層探査装置よりも更に低い周波数の超音波を発信するシステムで、海底下深くまでを調べる場合に適しています。 これに対してマルチチャンネル音波探査は、多数のグループのハイドロフォンを組み込んだ長いハイドロフォンケーブルを使用します。 そして各ハイドロフォンで受信した同一地点の情報を電気的に重畳することにより、より深くまでの情報を少ない雑音で得ることができます。 一方、屈折法音波探査は調査船と別の調査船又はブイを一組として作業が行われます。 前方の調査船は前進しながら音波を発信し、後方の調査船またはブイは停止した状態で海底下からの反射音を受信します。 この場合、音波の発信源と受信位置との間隔は反射法と異なり、時間とともに広くなっていきます。 この方法で得られた信号を解析することにより、海底下の地層の厚さと音波の伝播速度が計算でき、海底下の地層がどのようなもので構成されているかを推定できます。 4. 測位海上における船の位置(船位)を測定することを海上位置測量あるいは単に測位といいますが、島影一つ見えない洋上において正確な船位を求めることは意外にむずかしいものです。 特に水路測量において水深などを正確に測定するためには、まず、船位を正確に決定することが大前提となります。 どんなに水深を正確に測定したとしても、その位置が不正確であったならその水深値は信頼の置けないものとなってしまうからです。 このため、水路測量を実施する船は一般の船舶以上に正確な測位を行うことが要求されます。 昔は陸の近くの海域では陸地の物標を六分儀を使って求める陸測や、外洋では太陽や星の位置を六分儀で測定して求める天測が主な測位方法でしたが、近年は電波測位や衛星測位などの便利な方法が実用化されており、測位精度も飛躍的に良くなっています。 衛星測位は人工衛星から発射された電波を受信して船位を測定する方法です。 1973年から米国の国防総省はGPS(全世界測位システム)という名称の衛星測位システムの開発を進め、1993年には24個の人工衛星が軌道上に打ち上げられて、ほぼ全世界でいつでも精度よく船位を測定することができるシステムとなりました。 GPSによって測定された船位の精度は通常±100m程度ですが、陸上の既知局から送信される測位の補正情報の電波を船で受信して船位を補正するシステムであるDGPS(ディファレンシャルGPS)を使用することにより、±10m〜±1m程度の精度で船位が決定できるようになってきました。 我が国では、海上保安庁が1997年3月から神奈川県の剣埼と三重県の大王埼の中波無線標識局から送信する中波ラジオビーコンの電波にGPSの補正情報を追加してDGPS局としての運用を開始しました。 今後、更に中波無線標識局のDGPS局への改修・新設を進め、1998年度中には北海道から沖縄まで22局のネットワークによって、一部遠方の離島海域を除く日本全国沿岸の距岸200km程度の海域をカバーする計画です。 |
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